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高松高等裁判所 昭和32年(く)6号 決定

少年 K(昭和一四・四・一九生)

主文

本件抗告を棄却する

理由

本件抗告の理由は記録中の申立人Lの抗告申立書記載の通りであるからこれを引用する。

よつて記録を精査し、本件犯行の動機、事案の性質、又これが被害者に及ぼした精神的肉体的打撃等を考慮し、なお記録に現われた少年の性格、年令、境遇と少年に対する家庭の保護能力等彼此綜合すると本件少年に対しては在宅保護よりも施設に収容して矯正教育を受けさすことが寧ろ必要であると認められるので示談成立等所論の諸事情に拘らず少年を中等少年院に送致する旨の原決定は寧ろ適切であり論旨は結局理由がない。

よつて少年法第三三条第一項により主文の通り決定する。

(裁判長判事 玉置寛太夫 判事 谷弓雄 判事 合田得太郎)

別紙一

(附添人弁護士の抗告理由)

第一、少年は成人と異なり前途遼遠でありその保護処分の方法によつては一生を誤またせることとなる。ここで最も大切なことは少年の地域環境及家庭保護環境である。

(一) 少年の地域環境として住居地たる○○市××△△部落は比較的淳朴なる農家で犯罪的傾向にある者は皆無でいわば犯罪処女地とも言える地域で、地域社会は極めて善良である。

かかる地域にあつては両親の善導と農業指導により更生しうるものと思われる。

又従来少年は家を嫌つたり農作を怠る風は見えなかつたもので寧ろ農業に勤勉であり両親が兎角の注悪を与えないでも相当熱心にやつていたものである。

(二) 家庭において保護能力が十分である。現在両親がそろつており、この度の事件でいたく恐懼し、子の罪は親の罪と感じ、再び犯罪に陥らぬよう十分観護監督することを誓つている。少年は両親の真の愛情と家庭観護により更生しうるものと思われる。

少年院は矯正教化を目的としておるもそれは家庭的保護能力なき少年を取扱うべきところであり、家庭的保護能力ある少年は一応家庭で補導更生させるのが相当である。

第二、少年は昭和三十一年七月二日高知家庭裁判所において桃色グループ虞犯少年として審判を受けたが不処分となつている。保護処分を受けるのは今回が最初である。

第三、少年と両親が被害者に対し十分陳謝し且つ罪の意識が強烈である。

少年の父は相被疑者であるMの父と共に被害者に対し、慰藉料三万円(各自半分宛負担)を支払い、ひたすら恭順恐入の誠を捧げている。

第四、本件に関し如何なる保護処分を為すかについては被害者の感情が重大要素となつていることは申すまでもない。被害者の立腹は尤もなことであるが、現在においては少年を宥恕し少年の改心と両親の真心に接し、少年を家族、親族、その他指導機関の手に補導を委託し更生させ、社会に役立ちうる様措置せられることを希望し少年院へ送付することを望んでおらない実情にある。

第五、尚本件は強姦により傷害を負わしめたものであるが、幸い処女膜裂傷等外陰部及膣部に損傷を負わしめることなく終つたものであり、又少年において最後の目的を遂げることなく中止に終つたものであり、被害者に対し肉体的生理的変化を生ぜしめる要因は幸いにして与えておらないものである。

叙上の理由により本件については少年を試験観察処分に付し相当日数の観察をした上で終局決定をせられることが相当であると思料し、抗告申立に及んだ次第である。(昭和三二年八月二六日)

別紙二

(原審の保護処分決定)

主文および理由

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

本件非行事実

少年はM、N、Oと共謀の上、P子(当一六年)を強姦せんと企て、昭和三二年七月一三日午後一〇時三〇分頃○○市××所在の高知県立○○高等学校南舎東南方砂浜の波打際附近に於て、同女を仰向けに倒し同人の口を塞ぎ手を押えつけ、或は同人の腹の上に馬乗となり「言うことをきかないと殺すぞ」と脅迫し、同人の頸部を両手で締め付ける等の暴行をなし、同人の抵抗を抑圧した上、即時同所に於て同人を姦淫し、よつて同人に対し加療約一週間を要する頸部絞扼傷を負わせたものである。

罰条刑法第一八一条、第一七七条、第六〇条。

情状及び措置

少年は中学校卒業するまではさしたる問題点もなく、順調に成育したのであるが高等学校入学後は不良学生との交遊を始め、怠学、夜間外出等も多く素行は急激に悪化し、遂に昭和三一年七月○○市内に於て不良グループと旅館に宿泊し、桃色遊戯中を警察官に保護せられ当庁に虞犯保護事件として送致され、該事件は訓戒の上不処分となつたが、少年の素行はその後も一向に改まらず、不良グループとの交遊が絶えない許りか、前にも増して学業を怠り遂に高等学校三年を退学し、退学した後もこれと言つた希望目標なく、家業を手伝う外は無為快楽追求的な生活を送るうちに悪友と語らい遂に本件非行を犯すに至つたものである。

家庭は父母共に実直、勤勉で兄弟も善良、生活程度も中流である。右の如く少年は家庭には比較的恵まれている。然らば少年が本件非行を犯す迄に堕落した原因は何であろうか、それは先ず少年の性格上の負因であると考えられる。すなわち少年は外向性タイプで蓄積性情面の倚りはないが、意志面に偏倚がみられ、短気で熟慮することなく直情的な意志の発動をみる、又情緒の変動鈍く意志緊張の持続的保持に欠け自制力乏しく欲求を充足するため短絡行動をとる傾向がある。

今かかる性格負因を有する少年が高校入学以来取つて来た態度をみるに少年は向学心のないまま父母の奨めで高校に進学したものの、学習意欲乏しく将来に対する希望目標もなく、快楽追求へと発展し学業への自信喪失、劣等感への代償として前述の様な学業からの逸脱行為となり、その傾向の発展として遂に本件を犯す迄になつたものである。本件において特に注意すべきは少年が性に対する過度の歪められた欲求を持ち、女性を専ら性的対象としてのみ考え、たまたま被害者を認めて劣情を催すや、その欲求充足のため、極めて重大な非行を直ちに計画し、そこに何等心理的葛藤及び自からの内的抵抗感を持たない迄に至つている点である。そして右は前記少年の性格上の欠陥のあらわれというべく、単なる出来心として看過することのできないものである。

以上の次第であるから少年の性格を矯正し特に異性に対する正しい理解をもたらし、余暇善用の方法を習得せしめ、意志力を陶冶し、円滑な対人関係を確立し、社会規範の重要性を認識せしめることが必要で、このように少年の更生を図るため、又本件の重大性と被害者の感情からしても主文記載の少年院に少年を送致してこれに強度の矯正教育を施す必要があると思料する。仍つて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条に則り主文の通り決定する。(昭和三二年八月二六日 高知家庭裁判所 裁判官 宮崎順平)

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